竹久夢二(テスト投稿)

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 ある春の朝でした。
 太陽は、いま薔薇色の雲をわけて、小山のうえを越える所でした。小さい子供は、白い小さい床の中で、まだ眠って居りました。
「お起き、お起き」柱に掛った角時計が言いました。「お起き、お起き」そう言ったけれど、よく眠った太郎は何も聞きませんでした。「私が起して見ましょう」窓に近い木のうえに居た小鳥が言いました。
「坊ちゃんはいつも私に餌を下さるから、私がひとつ唄を歌って坊ちゃんを起してあげよう」
好い子の坊ちゃんお眼ざめか?
寝た間に鳥差しがさしにくる
 庭にいた小鳥がみんな寄って来て声をそろえて歌いました。それでも太郎はなんにも聞えないように眠っていました。
 海の方から吹いて来た南風は、窓の所へ来て言いました。
「私はこの坊ちゃんをよく知ってますよ。昨日野原で坊ちゃんの凧を揚げたのは私だもの。窓から這入って坊ちゃんの頬ぺたへキッスをして起そう」

「あんな娘をどこが好いんだ、と訊かれると、さあ、ちよつと一口に言へないが」さう云つて、画家のAは話し出した。
 彼女はただ普通のモデル娘として、私の画室に通つてきてゐたのです。私も特別、彼女に注意を払つてもゐませんでした。それほど、彼女は、ただの娘でした。年は十七八だつたでせうか、身体が大きいからと言つて、そのころ肩揚をおろしてゐました。
 彼女は、見たところそんな風で、人物にも性情にも特長のない娘でしたが、人から何か話しかけられたり、訊かれると返事のかはりに「まあ」と言つて、少し笑つた眼で相手を見返す癖がありました。
 その眼は、たいしてコケテイツシユなものではなかつたが、やはり年頃の娘ですから、黒く濡れてゐて、その眼が一種間のぬけた好もしい感じを与へました。
 そしてこの「まあ」といふ返事が、イエスでもノーでもないやうな、それでゐて、相手の言ふことをすつかり呑込んで、上手に受流したやうにも見えるのでした。だからある時などは、とても聡明な才女にさへ見えるのでした。さうかと思ふと、とてもとんちんかんな「まあ」であることもありました。

 それはたいそう大きな蝙蝠傘でした。
 幹子は、この頃田舎の方から新しくこちらの学校へ入ってきた新入生でした。髪の形も着物も、東京の少女に較べると、かなり田舎染みて見えました。けれど、幹子はそんな事を少しも気にかけないで、学科の勉強とか運動とか、つまり、少女のすべきことだけをやってのけると言った質の少女でした。たとえば青い空に葉をさしのべ、太陽の方へ向いてぐんぐん育ってゆく若木のようにのんびりした少女でした。
 それにしても、幹子が毎日学校へ持ってくる蝙蝠傘は非常に大きなもので、忽ち学校中の評判になりました。
 どこの級にも、頓智があってたいへん口が軽く、気の利いたことを言っては皆を笑わせることの好きな愚な生徒が一人や二人はあるものです。幹子の級にも、時子と朝子という口のわるい生徒がありました。
 ある日、幹子は学校へゆく途中で、この口のわるい連中に出会いました。むろんこの時、幹子は例の蝙蝠傘を持っていたので、忽ちそれが冷笑の的になりました。